異次元

2003年6月23日
夜の9時。
自宅から1駅のところで、過去に、出会った。
過去は、中年と壮年の境界を生きる男で
中2の頃の担任Jに見間違う。
頬は痩け、目は窪み、歯は抜け落ち
明らかに病人だったあのJが、アタッシュケースを小脇に抱えて闊歩している…!
顔色も良く、髪の艶もあり、すっかり回復したのだろうか。

電車が到着し、乗り込む。
向かいの席に座ったJは、
Jではなかった。
私は中3の頃を思いだす。
Jがいなくなって半年か、もっとか。

ある平凡な社会の授業。H先生は言う。
『きのう飲み屋に立ち寄ってんけど、そこで誰に会ったと思う?』
Jだった。
『照明の影で頬が真っ黒でなぁ、ひとりで日本酒を煽っとった。』
それで?
『便所から戻ってみたらもうおらんかった。
じゃあ、地図帳開いて…』

私は今、Jの歩いた道を、少しだけ通っている。
兵庫県立 K高等学校 ――。
かつて…、何十年前になるのだろう、Jが3年間漂っていた空間で、その何十年後に、私がゆらゆら浮かんでいる。
どこかで生きているのだろうか。
それともずっと死んでいるのだろうか。
わからない。

「人の人生なんて…」
ふと口を破いて出た。
けどその先が繋がらない。
むなしい?
違う。
儚い?
違う。
分からないモンだなぁ?
もっと違う。

この流れを比喩できる単語を、私は知らない。
もっと言うなら、…、以外の言葉では、どうにも表しようがないのだ。

阪急御影の寂れたプラットホームに降り立ち
Jの乗る電車を見送りながら、私はポソっと呟く。

人の人生なんて…

中途半端に開いた口を閉じれないまま、無機質な人の流れに飛び込み
私は現実に戻った。

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