あれから2回会った。
今までのペースを考えると、2ヶ月間に3回も会えたのは奇跡に近い。
次に会える日は未定。
機体を翻して飛び去っていくあの人を見届け、
またしばらく単独飛行に戻る。

就職活動を控えた私たちの船団に、尊敬する先生の飛行機が近づいて、
高高度を飛ぶ船団に私を誘ってきた。
その景色はさぞ綺麗かろう。
太陽のほうへと飛び続ける、その空はさぞ寒かろう。
ただひと筋に、脇目をふらず。
燃料尽きて落ちていく機体を顧みることなく。
呼ぶ声のままに、ひたすらに飛び続ける。

先生の機体が私に並び、灯火の明滅を繰り返している。
船団の他の船は気付いていない。
上昇を始めた先生に導かれるように、操縦桿を引く。視界が開ける。

声が聞こえた。
遠い空から。
空よりもずっとずっと遠くから。
私の船を呼んでいる。
この機体は高度を上げたがっている。

遠く目を凝らす。
落ちていく船の尾翼に、あの人の模様を見た。
コクピットの動かぬ横顔に、あの人を見た。
機体からは煙すら出ていない。
硬直したプロペラ。

レーダーを確認する。
あの人の信号は遠くで穏やかに明滅していた。
ほっと息を吐く。少し白い。
空を見上げる。先生の機体の腹が船団に吸い込まれていく。

私は片翼をひるがえした。右に先生の船団が見える。
そのまま旋回して、遠ざかってしまった元の船団のほうへ進路を切った。
散開地点を前に、どのパイロットもしきりに計器を気にしている。
燃料、OK。
エンジン、異常なし。
冷却水、正常。
私は防寒服のファスナーを上げ、口までそこにうずめた。
ゴーグルをかけ直す。ベルトは大丈夫か?問題ない。
ちら、と先生の船団を見上げ、私は大きく舵を切った。
船団がほどける。
加速度に、身体がシートへ押し付けられる。
いくらかの船が、同じ方向へ行くようだった。
見慣れた尾翼の船もある。
それじゃあ僕たち、一緒に行こうよ。
でないとこの空は、あまりにさびしくて、広い。
同じ色の雲を引こう。
完全に平行な航路なんてありっこないけど、
僕らそれぞれが、次の船団を見つけるまでは。

あの人はどこを飛んでいるだろう。
呼ぶ声はとうに途絶えてしまったはずなのに。
まだ高高度を、喘ぎながら。
船団から取りこぼされて、一人。

迎えには行かない。
落ちていくあの人の機体を、キャノピィの向こうに眺めることになっても。
この空をずっとずっと飛んでいく。
ただ、あの入道雲を過ぎて、並進するあの人の機体が見えたなら、
喜んで航路を変えたっていい。
船団を作ろう。
私と、あなたで。
その景色は綺麗かろう。
二人で飛ぶ空は温かろう。
完全に平行な航路なんてありっこないけど、
同じ色の雲を引こう。

燃料、OK。
エンジン、異常なし。
冷却水、正常。

仲間の船と寄り添いあって、私はこの空を飛ぶ。
あの機体が視界に入るいつかを、ずっとずっと待っている。


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